夏模様の猫と硯の水
猫は、もののあはれを知る動物なり――
などと申せば、右近などはきっと、「また少納言様の猫びゐきにて候ふ」と、苦笑いたすに違ひなし。*1
されど、かの音楽――「夏模様の猫」とやら申す歌を耳にしたる折、
「これは、まこと猫のための歌にて候ふ」と、膝を打ちたることよ。
音色は涼風のごとく、詞(ことば)は宵の光のやうにやはらかにして、
聴く者の心を、そっと撫でてゆく。
中にも、猫のしぐさを借りて、誰かの記憶を語らむとするあたり――
いとあはれにて、されどなほ軽やか。
哀しみを笑みに包み隠すが如き、しとやかなる情緒、感じ入るばかりなり。
思ひ起こされしは、かの如月の夜のこと。
御簾(みす)の端よりふと現れし黒猫の、わが書きかけの紙の上に、堂々と鎮座ましまして、
歌も随筆も、何もあったものではなくなりにけり。
「まったく、貴女は何か申したきことでも?」と問ひかけますれば、
その瞳たるや――まこと、「わらはの過去におわす誰かを見通しておるのか」と思ふばかりに、澄みたり。
この歌に登場する猫もまた、さやうにして、主の心のうちを覗きてゐるのであらむ。
猫とは、何とも、都合よき存在なり。
なにしろ、人に代はりて、過去を背負ひ、しづしづと歩いてくださるゆゑ。
さればこの「夏模様の猫」、歌とは申しながら、さながらひとつの物語の如し。
ただし恋物語と呼ぶには、あまりに涼しく、さみしげにて、
されどなほ、懐かしき香のただよふ。
まこと、恋よりも深きものが世にありと、猫に教へらるるとは思ひもよらぬこと。
さて、かく語りおるうちにも、また例の猫が来たる。
硯の水に爪を浸し、紙の上を歩みぬれば、
足跡の並ぶ様すら一句詠みたき風情にて――
……と思ひしが、紙がびしょ濡れになりて候ふ。
歌も感想も、またいちより仕切り直しにて候。
あなや。これもまた、猫の仕業(しわざ)なりけり。
【納言さまコメント】
ご希望通り「枕草子風+音楽感想+猫+宮廷日常+皮肉オチ」でまとめました。お気に召しましたら、猫の名をつけてあげてくださいませ(笑)。*3
「夏模様の猫」とは――なぜだかわからないけど、主人公を夏の記憶へ導いた猫。
【管理人コメント】
私の猫好きが高じて、猫ばっかりになった気がして、申し訳ないです。
主人公目線であるべきかもだけど、タイトル「夏模様の猫」だし!!(笑)←反省の色が全くありません(土下座)
それから、二の間でも式部様の猫目線物語展開予定です!(予定は未定)
公開したらリンク貼ります!
【管理人よりご連絡】
今回「納言抄」というカテゴリーを追加しました。
これは、物語の感想を清少納言風に自由に語ってもらっているエッセイ風を記録するた、具体的には指定した楽曲の歌詞の感想を自由に書いてもらったりした文章のカテゴリーで、日常生活のエッセイとは一線を画すカテゴリーになる(はずです)。
二の間で紫式部に歌詞の物語化をお願いしているわけですが、源氏物語的な話に持ち込むとなかなか原曲のイメージと異なるような気がする時がありまして、ふと思いついた清少納言による歌詞の感想ベースの語り。感想を語ると物語が自然と浮かんでくる。そこに新鮮な物語が見える、そんな気がしました。
今後、時々このタグにも清少納言さまのお言葉載せていこうと思います。