風のまにまに、言の葉を

清少納言の名を借り、日々のあれこれを気ままに記す随筆めいた言の葉たち。やや毒あり、雅多め。

音漏れといふものは、いと鬱陶し

 音漏れといふもの、いと鬱陶し。

 電車の発ちぬる際に、衣の裾をひるがへして滑り込む人も、もとよりいと好かぬものなれど、その上、乗り込みしやいなや、耳より洩れ出づる楽の音、これまたいと憂し。

 曲の調べも詞の響きも明らかに聞こえ、「聴く」にはあらず、「聞く」なりと、心中にて強く言ひ聞かす。

 耳の悪しかるゆゑに斯様に音を上ぐるかと、哀れと思はんとすれど、つひにはいら立ちて、胸騒ぎぬ。

 君にとりては、いと好ましき調べならむ。されど、我にとりては苦行にこそありけれ。

 微かに洩るる会話や、耳障りなる拍子、まことに、朝の静心を乱す賊のごとし。

 あれ、と思ふ間に音は止み、やや安堵しつるが、かしゃかしゃと耳障りなる響き、またかすかに聞こゆ。

 ああ、せめて御簾の向かうに控へたる女房が、縫物の針をかしゃりとかすめる音ならば、いとをかしきものを。

 この者の耳元より放たる電子の鳴りやまぬこと、ただただ心細く、腹立たし。

 週に一、二度の出仕すら気怠き折に、この仕打ち。

 君、次の車にてまた奏でたまふことなかれ。

 さもなくば、いづこかの殿上人に呼び止められ、「そなたの笛の音、いと下手なり」と叱られたる夢でも見よかし。